耳には一番お気に入りのピアス、お気に入りのワンピースにカーディガン。いつもならダラダラ起きる朝も、早くにベッドから抜け出したわたしの丁寧なメイクとヘアメイクに自画自賛しようと思う。大満足の出来である。今日は特段、特別な日なのだ。
小さい頃ガラル地方に住んでいたわたしは、少しの間だけ仲良くしていた子たちがいた。ダンデくんと、ソニアちゃんと、キバナ。四人でポケモンの話をするのが、なによりも楽しかった。四人で過ごせたのは本当に僅かな期間で、わたしはカントー地方に引っ越すことになったのだけれど、その時に連絡先を交換できていればあんなに泣かなかったのになぁと思う。小さい子供の思考では、そこまで考えつくまいよ。
何はともあれ晴れてわたしはまたガラルの地に舞い戻る事が出来たのですが。就職先がナックルシティに決まって、一度居住先を探しに訪れた時にばったり、偶然に、ソニアちゃんと再会したのだ!それからあれよあれよと、ダンデくんの連絡先も教えてもらい、キバナの連絡先も教えてもらい、わたしはニヤける口元を抑えきれなかった。あの時のわたしは相当気持ち悪い顔をしていたと思う。また四人でポケモンの話ができたりするのかな、ガラルにはいないカントーのポケモンたちの写真を見せてあげたい!クッションを抱きしめたわたしは夢見心地だった。

足元は、動きやすいようにローブーツにきめた。約束の広場に到着したのは五分前。さっきまで楽しみマックスだったのに、今は楽しみ半分、緊張半分。あまりに久しぶり過ぎて、上手く話せるだろうか。
なぜ今日が特段特別な日かって、キバナとランチの約束の日だから。連絡先を知ってから、何度かディスプレイ上ではやり取りをしたけれどあくまで文字だけ。直接対面して会話となると、緊張が…でもこれは楽しみの延長線上の緊張なのだ…。
キバナ、体も小さかったけれど、顔も小さくて、可愛くて、女の子なのに自分の事をオレさま、なんて言ってる所が特にとびきり可愛かった。口下手なわたしと仲良くしてくれて。それは、ダンデくんも、ソニアちゃんも一緒なのだけれど。どんな女の子になってるのかなぁと、たまたま見上げた先に大きなディスプレイ。コスメのCMに出ていたのはナックルシティのジムリーダー、キバナさんだ。キバナ、同じ名前。顔が良い、キバナもはちゃめちゃに可愛かった。キバナと名前の人は皆、顔が良いで定評があるのかもしれない。
腕時計を見ると、約束の時間を過ぎていた。連絡を入れようか迷っていると、スマホのバイブが震える。

『もう着いてるよ、そっちは?』

キバナからだ。着いてる、らしいが周囲を見渡してもそれらしい人を見つけられない。

『こっちも着いてる! どこにいる?』
『時計のところ、特徴は? オレさまは白のTシャツに黒いジャケット着てる』

時計のところ?わたしも時計のところにいるけれど、近くにいるのは背がとても高い男性くらい。この辺りには似たような時計のある広場があるのあろうか。

『同じく時計のところにいるよ、服はグレーのカーディガンで黒のボディバッグ』

黒いジャケットかぁ、女の子で黒いジャケットなんて、絶対に格好いい。背がとても高い男性も偶然黒いジャケットを着ているけれど、はぁそれにしても高い、わたしが首を痛めそうだ。後ろから見上げていたら、くるっとこちらを振り返った。ひぇっ、見てたの気付かれてた?怒ってるかな?どうしよう、そんな事を考えながら慌てて目線を下げた時、視界に入った服装が白のTシャツに黒のジャケットで。思わずぱっと見上げると、彼も度肝を抜かれたという表情。まさか、嘘でしょ?そんなことってある?

「キバナ…? え、ま、ジムリーダーのキバナさん? あれ……あっ、そうだソニアちゃんに連絡を、」
「待て待て大丈夫だ、お前で間違いなさそうだ」

ソニアちゃんに連絡しようとしたわたしを、大きな手が制した。

「わり、勘違いしてた」

お前女の子だったんだな、と言うキバナ、もといキバナさんに、わたしは、そちらも男の子だったんですね、と敬語でお返しするしかできなかった。









いつか君の為にひくルージュ