ドタバタと足音をたて、親戚の子供たちがに到着を知らせる。夏希から着たばかりのメールが表示されている携帯の画面を、じっとみる。文面だけでも十分夏希の明るさが伝わるそのメールの内容に、も少し驚いた。異性と付き合う以前に手を繋ぐこともできなかったあの夏希が、本当に将来のお婿さんを連れてきたなんて、きっと相手はかなり穏やかな人に違いない。がつがつするような肉食系ではなく、夏希のペースにあわせて一緒に歩んでくれるような、優しい人に違いない。
は携帯をぱたんと閉じると、叔母たちと挨拶を交わす。相変わらず表情を変えないに叔母たちは慣れているようで、ちっとも気には留めていないよう。以上に感情の読めない佳主馬がいることもあって完全に免疫がついているようだ。挑発すれば子供らしい態度をとる佳主馬と違って、すっかり精神面が大人なは叔母や叔父、または伯母や伯父たちの挑発には乗らずさらりと回避してしまう。万助たちからすれば孫、直美たちからすれば姪っ子になるわけだが。

やはり可愛い孫、可愛い姪っ子のなによりの笑顔を見れないことは心寂しいことらしい。









又いとこのお婿さん









「あ、!」

少し遠くのところからわざわざを呼び止めるのは一人しかいない、夏希だ。子供たちと変わりのない足音を立てて勢いよく近づいていくと、ブレーキをちっともかける様子もなくに飛びついた。よりも少しだが背の高い夏希にまるで頭から抱え込まれるような状態、夏の暑さにプラスして蒸されていく感覚。やたらとスキンシップを取りたがるのも夏希の特徴で、とにかく二人は性格から行動まで正反対。

「久しぶり!」
「久しぶり」

満面の笑みで心底嬉しそうな夏希の表情には圧倒される自分がいることに気付く。圧倒されないわけがない、これがもし夏希を意識する異性だとしたら初対面だろうとその笑顔だけでいちころだ。とても魅力的で、人目を惹く。夏希が走ってきた方向からやってきた見知らぬ少年に、は夏希を見ると意味有り気ににんまりとする。

「ふふふふふ」
「夏希、きもい」
「ひっどーい!」

表情から読み取って真反対であろう二人なのに、何故か均等を保っている二人の関係。やり取りは仲の良い姉妹のような、でも姉妹とは違う友達のような。少年は、夏希にきもいとさらりと言いのける人物がこの世に存在することに対する驚きと、見たことのない夏希の一面につい笑い声をもらす。に視線を向けられると、少年は気を悪くしてしまったかなと焦り、謝罪を述べる。

「すみません」

はきょとんとした表情を浮かべ、謝る意図が分からないと表現する。ぼんやりだが、少年はそれをきちんと読み取ることが出来たらしく、良かったと安堵の笑みを見せた。外見年齢はや夏希と同じくらいの高校生のようだが、外見年齢と実際年齢がイコールではない人はいくらでもいる。それに精神年齢が加わるとイコールではない確率はさらに高くなるが、しかし、には少年の浮かべた笑みにはまだ幼さが残っているような気がした。
こういう時の仕切り役は勿論夏希。

「健二くん、紹介するね。又いとこの
「陣内です」
「わたしと同じ、高校3年」

可愛いでしょ、と付け足して自慢げに夏希はの腕に自分の腕を絡ませる。瞬時に、自分の恋人に対して自分以外の女の子を可愛いでしょなんて訊ねたりするか、という疑問が過ぎりの頭にクエスチョンマークを浮かべさせた。又いとこだから、別格の扱いなのだろうか?夏希は絶対に、デートしている最中少しでも恋人が自分ではない違う女性を目で追ったりしたら嫉妬しちゃうような、そんな普通の女の子だと思っていた。可愛く拗ねてベタにそっぽを向いちゃうような女の子だと、はてっきり思っていた。例えそれが又いとこだとしても、夏希と同じ性別という時点でやはり違いはないような気がする。

「こちら、健二くん」
「小磯健二です。一つ下の、高2で、」
「あーっ!!」

耳元で叫ばれたものだから、肩がビクッと大きく揺れる。耳の奥が痛い。

「ご、ごめん」
「大丈夫ですか?」

キーンと高音が鳴り響き、一瞬だけ耳が遠くなる。二人が何を言ったか正直聞き取れなかったが、この状況で蔑む言葉を吐くような夏希と健二ではないだろう。とりあえず首を縦に振ってみせる。

「ど、どうしたんですか? 夏希せんぱ、」
「わーっ!!」

二度目となれば睨まれて当然だろう、の視線に今度は夏希が圧倒される。だがすぐにじとっと、まるで夏希の内を勘繰っているようなPCでいうと検索をするような、そんな目で見られ息に詰まる。

「ほ、ほらほら大おばあちゃんに挨拶しに行かなきゃ!」

わざとらしく誤魔化したつもりの夏希は、健二の背後に回り両手で背中を押すとの横を通り過ぎようとした。

「夏希」

真剣な瞳に見つめられ、本当に呼吸が難しい。

「な、なに…?」

は勘が鋭い、元々持っているそれもあるのだろうが、空気が読めるし周囲の人のことをよく見ているから分かってしまうのだろう。健二が話している最中に二度も叫べば誰でも気付いてしまうかとも思うが、夏希はにだけ嘘をつくのが苦手だった。苦手というより、すぐにバレてしまうのでつく意味がなかった。まぁ、嘘といっても喜ばせるための嘘であって、悪意を持った嘘を夏希は一度もついたことはない。
何か言いたげに見つめていただが、開きかけた口を一度閉じると夏希にとっては予想外の言葉が声になって聞こえてきた。

「ごめん、なんでもない」