「あの、ボクも賛成です」

敵討ちを提案する万助に、健二が賛同の意を述べ挙手をすると、リビングに居る万里子たちを振り返る。男性陣は健二の行動に信じられないとでも言うようなぽかんとした表情で、健二を注目している。

「今までOZでの出来事が人の命に関わるなんて思ってもみませんでした」

誰も予想し得なかったことだ、現実と仮想現実が容易に結びつくわけが無い。けれど現代、すでに現実と仮想現実は結びつき切っても切り離せない関係であることを誰もが忘れてしまっていた。OZがなければ成り立つことの無い生活が当たり前になり過ぎて、考えが至らなかった。
ラブマシーンが様々な通信回線を混乱に陥れ住宅ケア用の緊急ボタンが押され続けていた頃、本当に助けを求めている老人が中には居たかも知れない。もしかしたら知らぬ間にニュースにあげられていて、自分たちは気付かず、または知りもせずに問題は栄の亡くなる前に起こっていたかもしれない。

「やつは危険です、昨日や今日の出来事が今後どこかで起こってもおかしくはありません。せめて、ボクらだけでもやつを止めないと」

思い詰めるように真剣な眼差しで、健二ははっきりと自分の意見を言ってみせた。

「はぁ? あんた何言ってんの?」

馬鹿じゃないのと言っているも同然の喧嘩口調で、直美が健二を睨み付ける。

「ですからっ、これ以上被害を出さないためにっ、」
「人ん家で何馬鹿なこと言ってんのって言ってんの!」
「し、しか、し…」

すっかり勢いをなくした健二が元々猫背で丸まっている肩をさらに丸める。この大勢の中でたった一人、赤の他人である健二の発言が許される雰囲気ではなかった。
なんでこんな時によそんちの心配しなきゃいけないのよ、と大声でぼやく直美をはつい凝視してしまう。偽善のつもりではない、ましてや誰かに尊敬されたいわけでもない、犠牲者を出さないために何かをやりたいと言う健二の純粋な気持ちのどこが一体馬鹿だというのだ。こんな時でなければ出来ないことだからやるのではないのか、やりたいと思うのではないか。これ以上放っておいたら被害ははかり知れない、それこそ本当に核が発射され人類滅亡だって有り得る、感情のないラブマシーンなら遣りかねない。

万里子はパンパン、と手を叩くと立ち上がり全員に指示を出す。はご飯もおかずもまだ残っている食器を両手に持つとキッチンへ向かい、残飯を捨て食器の汚れを軽くすすぐ。水の溜まっているお茶碗に水の粒を溜めている蛇口からぽた、と雫となり落ちると水面に波紋を作り上げる。ぽた、ぽた、と落ちる雫もなくなり水面は波紋を消し、微かにの顔を映す。
栄の死を切欠に、皆がばらばらになってしまったようだ。解れたセーターの毛糸をちょっと引っ張ったら、簡単にほどけてしまったような、そんな感じ。分かっていたけれど居なくなってなおさら知らされる、栄の存在の大きさ、価値、意味。哀しみに打ちひしがれていないで思考を巡らせれば、こういう時栄ならどうするか、自分たちがどうしなければいけないのかなんて、安易に分かるだろう。

どうしてもこのまま大人しく栄の葬式を執り行ってはいお終いなんて、それでいいとは思えなくて、は万里子たちの目を盗んでこっそりとその場を立ち去る。リビングに居たはずの佳主馬たちが見当たらなくて首を傾げる。この広い屋敷内を探し回るのはただの無謀、どうしようかと縁側に出ると佳主馬と万助が履いているサンダルがないことに気付く。でも二人だけではまだ確定とは言えない。小走りで向かった玄関先を覗くと、健二の靴や見慣れた父の履物もないことを確認する、外か。は自分の靴を強引に履くと、栄の言葉を思い出す。

身内が仕出かした間違いは、皆でかたをつけるよ!

今がその言葉に、酬いるときだ。









恥じぬように









車に乗り込もうとした太助がを見つけ声をかける。今頃万里子たちの手伝いに追われていると思っていたが玄関先に居たのだから、声をかけずにはいられまい。しっかり靴を履いて、今から出かけるとでもいうのだろうか。

、どうしたんだ?」
「お父さん、何かするつもりでいる?」

の言葉に顔が引き攣る、まさか告げ口でもするつもりだろうか、なんて。が翔太のように幼稚でないことは父である太助本人がよく知っている。なら一体どういうつもりでその問いを投げかけたのか、意図が掴めずえぇっと、と目を泳がせてはバレバレだ。
は許可も得ずに助手席に乗り込むと静かにドアを閉めた。太助は瞬きを繰り返しぽかんとを見ている。

「あたしも手伝う」